河村重治郎・吉川美夫『英単語熟語練習』

河村重治郎の著書に『英単語熟語練習』という書籍があり、その中に「英文解釈の方法」というものがある。参考になると思われるので、記載したいと思う。

         英文解釈の方法

 読者は本書によって単語・熟語の研究が十分出来たとして、次にこれを英文の解釈に役立てなければ何の益にもならないのである。ここで我々は英文は如何に解釈されるべきものであるか、その正しい方法について語る必要を感ずるのである。

 そもそも英文は読んでそのまま理解されるべきである。一度文を読んでみて、それからゆっくり様々な順序で語句を辿りつつ意味を考えるべきではないのである。多くの人は「訳」ということと、「解釈」ということを混同しているが、これは非常に悪い誤りである。英文を解釈する時には、訳ということは全然考えるべきでものではない。大事なことは意味を取ること即ち内容を理解することである。意味を取る方法が解釈法である。これは我々が機会あるごとに唱導している方法であるが、我々はこれを直解式解釈法と名付けている。多くの人は問題を見ると先ず下読をするのであるが、我々に取ってはこの下読というものがない。文頭の第一語から解釈の努力が始まるのである。それで我々は問題の全文を始めから示されなくとも、何等苦痛を感じないのである。我々は英文を読み、英語を聞く時に、一語一語一句一句、読むままに又聞くままに、文意を脳裏に把握するのである。その点日本語を理解する場合と少しも異なることがない。これが最も正しい英語の解釈法であり、又これ以外に英語の解釈法はない筈である。受験生であるからといって、別に特殊な英語解釈法を求める理由は毛頭ないのである。何故ならこれは最も正しい方法であるのみならず、又これ程簡易な又応用し易い方法は他に無いからである。我々は次に実演的にこの英文解釈の方法を示そうとしているのであるが、諸君はよく一語一語一句一句に対し、我々の頭が如何に働いて文の意味を取って行くかに注意し、この方法をの真髄を理解するよう努められたい。

 Moreーこれだけで正しい考えを纏めることは容易ではない。もう少し続けて読む。

 More has been addedー「もっと多くが加えらえた」「もっと多くのことが加えられた」。現在完了には、「今迄に」「今もその加えられたものが残っている」等という心持が表されている。さて、addは自動詞にも他動詞にも用いられるが、自動詞の時は、add to...として「・・・を増す」の意味であるが、他動詞としてはadd A to B で「BにAをみたす」の意味である。「もっと多くが加えられた」という以上「何に」という事が当然頭の中に来なければならない疑問である。次に「もっと加えられた」という以上「何に」という事が当然頭の中に来なければならない疑問である。次に「もっと加えられた」という以上「何よりも」という事も当然考えられなければならぬ事である。又「何に依って」加えられたかという事も思い浮かぶであろう。そうするとこの書き出しに依って我々はこの文章に対して大体次の想定をすることができる。

 「Aに依ってよりもBに依ってXに尚多く加えられた」

 「Yに加えられたよりもXに尚多く加えられた」(何に依って?)

 文の解釈は敵軍の征伐と同様だと我々が前に言った言葉は、こういう風に数語の意味から全文の意味に対する想定を立てつつ、解釈の鉾を進めて行くことを指したのである。

 併し人間の考えは実に多種多様を極めるものであるから、今我々がこう想定した事が時に外れないとも限らぬ。その時には又その時の態度を決めることにして、兎に角次の語句に進んで行こう。

 to the sumー「総計に」。何の?

 of humman knowledgeー「人間知識の」(総計に)。これで大体の意味が落ち着いた。即ち先に我々がXとして置いたものがthe sum of humman knowledgeとして表れて来た。この文がこれから如何に発展して行くか、次の語句に就いてこれを見よう。

 in most of the sciencesー「大多数の科学に於ける」(人間知識の総計)。「人間知識」を一層正確にした句である。

 during the first quarterー「始めの四分の一に於いて」(もっと多くが加えられた)。加えられた時期を指す。「始めの四分の一」とは何の?

 of the twentieth centuryー「二十世紀の」(最初の二十五年間に於て)。

 than in any whole century previous,ー「以前の如何なる全世紀(=満百年)に於けるよりも」(尚多くの事が二十世紀の最初の二十五年間にXに加えられた)。A=any whole century previous, B=the first quarter of the twentieth centuryである。ここでcomma があって文が中断されることを示している。

 and,ーこのcommaは何を示すであろうか?普通なら全く不要なものである。無論これは次に挿入句の存在を示す目印である。路傍に立っている「この先き左へ急カーブあり、注意せよ」の信号標が多くの自動車運転手の心を引き締めるように、このcomma は我々の心に大きな意味を伝えている。

 what is more importantー「見地から」(もっと重大な事に)。

 of the historianー「歴史家の」(見地から...)。このcommaは挿入句の結末を示すもので、これから本当にandに続く部分が出てくる筈である。それは恐らくこの文の前半に対する一個の文ー主語・述語を具えたーであるであろう。

 all the sciencesー「凡ての科学は」。どうした?

 have been...?ー受身になって来るか、進行形になって来るか、それとも形容詞又は名詞が続いて「・・・であった」となるか?

 have been more quicklyーまだよく分かって来ない。比較が表れて来たから後にthan...と来るだろう事が予想される。

 have been more quickly and extensivelyー「もっと速かに又広く」

 have been more quickly and extensively appliedー「もっと速かに且つ広くapplyされて来た」。これで兎に角文意が落ち着いて来た。apply には二三の異なった意味のある事は本書で学ぶことであるが、ここでは受身であるから勿論他動詞の場合にはapply  A to B で「AをBに応用する」の意味である。当然次にto B が予想される。それからthan...の来ることも忘れないでいよう。

 to daily lifeー「日常生活に」(応用されて来た)。

 than ever beforeー「曾て以前よりも」(尚速かに且つ広く)。最後のperiodと同時に我々は此処に全文の解釈を終わったのだ。

 More has been added  to the sum of human knowledge in most of the sciences during the first quarter of the twentieth century  than in any whole century previous, and, what is more important from the view-point of the historian, all of  the sciences have been more quickly and extensively applied to daily life than ever before.

 大概の科学に於る人智の総和は二十世紀初頭に於る二十五年間に於て、過去の如何なる百年間に於るよりも多く増加された。そして歴史家の見地からもっと重大なことに、凡ての科学は今迄の如何なる時代よりも一層急速に且つ広汎に人間生活に応用されて来た。

この演習によって諸君は単語の知識と語法・構文法の知識とが如何に相互に助け合いつつ、英文が解釈されて行くべきものであるかを、充分悟られた筈である。

 

河村重治郎は、日本人の様に二、三度全体を読んで文の意味を考えるのではなく、又、今の直読直解とは少し異なり文章の構造や意味を考えながらある纏まりのある文を読んでアメリカ人の様に文章を読んでいるようである。事の当否はともかく参考になる考え方であると思う。