雑誌『ふらんす』(白水社)について

『ラルース仏和辞典』などで有名な白水社のかつて発行されていた雑誌『ふらんす』は、大変良く出来た雑誌で、関口存男の『基礎ドイツ語』に比肩しうると思う。

 

 

ー僕、この頃、あなたの『新訂基本フランス文典教科書』でフランス語を勉強しているのですが、時々どうも上手くいかなくて困っています。一つ質問させて下さいませんか。

ーどうぞ。

ー課ごとについていの練習問題ですが。あれは、規則とversionを頭に叩き込んで置いたら、捌ける仕組みになっているのでしょうか。

ーそうです。どんな単語も漏れなく覚え込んでおかれたら。

ーところで、僕、仰るだけの苦労をしている積もりですが、第二課のThemeの第一題「この街は、賑やかでない。」というのが、どうも上手く切り回せません。

ー至って簡単な問題なんだが、何処が上手くいかないんです。

ー「賑やかな」という形容詞が見つからないのですが。

ー見つかります。

ーそう仰っても。

ー第一課のversionの中にちゃんとあるのですがね。

ーなあんだ。第二課に第一課まで持ち込ませるのですか。

ーいいじゃないですか。済んだところを済んだところにしない所に、著者の苦労があるのです。

ー意地が悪いなあ。

ーそうではない。至って親切なのです。

ー参ったな。するとversion1の何処に石を伏せてあるのでしょうか。

ー探してご覧なさい。

ーええと、ちょいと探せませんが。

ーじゃ、第五の文章を読んでみて下さい。

ーL'activite est grande autour de la gare centrale.

ー率直に言うと、君の読み方には、一向締まりがありませんな。

ーと仰ると。

ー言葉一つ一つから、ちっともリズムが感じられないというのです。初めの主格として使われている名詞のL' activiteにしても、L'ac-ti-vi-teと四つの音節を持っている言葉であるのに、四つの語音がだらりと続いている切りで、例えば秒を刻む時計の音を聞く感じがない。♪♪♪♪と言った具合に音符を正確に読む心得がないと、フランス語の持っている言葉のリズムは、生きてきません。grandeというか形容詞を読む場合にしても、♪♪と言った具合に音を運べば、自然言葉としての美しさが出てくるわけです。

ー嫌に難しい事を仰いますね。

ーそうでしょうか。だけど、フランス語を学ぶ場合には、至って大切な事なので、後になってて落ちを埋める様なやり方をせずに、初めから手落ちのない勉強をするのが良い。難しい事の様だが、この事は、歌を歌う事と、物を言う事を、二つの事と考えない心掛けがあれば、割合楽に片付く問題です。まあ、精々やってみて下さい。それはそうと、今の文章の訳は。

ー「中央停車場の周りは、活動が大きい。」

ー言葉一つ一つを辿れば、当にその通りです。だが君は、言葉を読んでいて、言葉の裏を読んではいません。だから、「活動は、大きい。」と言う様な、何ともこなれの悪い言葉が飛び出してしまうのです。どうです、言葉を読み取って見ませんか。

ーああ、そうか。これが「賑やかだ」と言うわけなんですね。

ーそうです、勿論です。そうすると、君の引っ掛かっている「この街は、賑やかでない。」と言うのは、どうなるのですか。

ーええと、L' activite n'est pas grande

ーその続きは。

ー困ったな。

ー困る事は無いでしょう。「中央停車場の周りは」が、autour de la gare centrale

だから、autour de の代わりに、「においては」と言う意味の前置詞を持って来て、その後に「この街」に相当するフランス語を添えればいいんです。

ーdans ce rue でいいでしょうか。

ーdans は、結構だが、ce rue は、いけません。

ー?

ー名詞のrue は、男性では無く、女性です。

ーああ、そうですか。じゃ、dans cette rue.

ーそれで、君の疑問は、解けた訳だが、文字を読む癖が、君を笑止にも迷路に追い込んだのです。煩く言う様ですが、事柄を読む心構えが無くて文字を読んだところで、文章の本当の意は、掴めません。だから、どんな簡単な文章でも、「活動が大きい。」などと言う熟れの悪さを突き抜けて、一日本人とし可笑しく無い言葉を発見する心意気が大切です。フランス語と日本語とでは、勿論文脈が違うんですからね。一寸、この文章を読んでご覧なさい。

 

ーje suis pret a vous guider cette ville.

 

フランス語について、造詣が深く、また、学も深いと思う。

 

田中菊雄『英語研究者のために』

田中菊雄の『英語研究者のために』は、大変有名であるが、著書の内容を詳細に解説したものはないのではないだろうか。著書では、参考書として多数の読破すべき書籍を掲げているが、読破すべき書籍の数は、必読の研究社の英文叢書から始まり、優に数百を超過するのではないだろうか。松本博士は、蔵書は、二千冊以上で、それ位は読破すべきだと言うが、英語を修得するには、それ位は読破しなければ、英語を修得することは難しいのだろう。英語修得の条件として、必備のOEDとCOD、POD等の辞書類、原書数千冊が目安となるだろうか。

『黒馬物語』安藤貞雄 註解 直読直解アトム英文叢書

安藤貞雄は、『現代英文法講義』で高名であるが、『黒馬物語』のMrs. ; Mr.の説明も傾聴に値すると思う。

 

諸君が習った英語教科書等では、大抵、Mrs. とか Mr. の様に、ピリオドが打ってあったのではないでしょうか。だとすれは、この物語を読んでいて Mrs とか Mr の様に、後にピリオドが打っていないのを見て、少なくとも奇異な気持がしたに違いありません。でも、実は、この様な語にピリオドを打たない方式もあるのです。つまり、ピリオドを打つ方式は、アメリカ式のものであり、ピリオドを打たない方式は、イギリスの方式はイギリス式のものであるというわけなのです。日本の英語教科書類にピリオドを打ったスタイルが多いのは、要するに、アメリカの方式に則ったということに過ぎません。この本には、他にも、Dr という形が何べんも現れていましたね。

 

普通、DrやMrなどにピリオドが付いていなかったら、誤植と直ぐに思うのではないだろうか。これも、英語の知識の不足だと思う。他にも、炯眼による解説があり、作者の英語の造詣の深さが窺われる。

 

田中美知太郎『ギリシア文法提要』(『ギリシア=ラテン講座』中)

田中美知太郎の『ギリシア文法提要』は、単行本では存在せず、『ギリシア=ラテン講座』の中に含まれている。内容は、『ギリシア語入門』より極めて詳細である。『ギリシア語入門』の次に読むべき書だと思う。古代ギリシア語は、文法が難解で、文章も晦渋であり、『ギリシア語入門』一冊ではとても間に合わないので、数冊読む必要があり、田中美知太郎の『ギリシア文法提要』も必読書であることは、論を待たない。

中国人とヘブライ人、エジプト人

古代中国人とエジプト人は、象形文字を使用するという点、ヘブライ人とは、言語の構造と教訓などの内容の点に於て、類似している所を思慮すれば、中国人とエジプト人ヘブライ人とは関連があることが窺われ、恐らく、古代のエジプト人ヘブライ人たちは、陸路、又は、海路で中国まで来たのだと思う。